[本]『経営センスの論理』(楠木建 著)
『ストーリーとしての競争戦略 ―優れた戦略の条件』で誉れの高い楠木建さんの新刊。著作名は『起業のファイナンス』で述べられた「センスだけでは経営は続かない」ということに真っ向から反対するようなタイトルとなっていますが……。ともあれ、非常に痛快な本です。
特に、76ページから始まる「攻撃は最大の防御――極私的な事例で考える」は控えめに言って下手な漫画よりもよほど面白いので、電車内では読まないほうがいいでしょう(これ、書いてて絶対楽しかったんだろうなと心底思います)。前作は多少堅い印象もありましたが、本作は飲み屋で同業の先輩と話をしているような、気軽で知的好奇心をそそるような内容でした。タイトルに使われてる「センス」という、いわく言い難きファジーなものが、一体どのようなものかを体感できる仕様になっています。
イノベーションの原風景って「コロンブスの卵」なんですよね。知ってしまうと当たり前になることですが、知るまではどうにもこうにも分からない。「無知の知」ではないですが、我々はそれを知る前の自分というのを謙虚に受け入れる姿勢が大切だと思いました(そうでない限りは、自らイノベーションというのは起こせないのではないかと思います)。なお、言うまでもないことですが、経営に興味がある人にはお勧めできる本です。
※メモ※
『ストーリーとしての競争戦略』の意図
あらゆる競争の戦略は「ストーリー」という思考様式をもってつくられるべきだ。
優れた戦略をつくるために一義的に必要なもの
「センス」
戦略の本質
シンセシス(綜合)(↔アナリシス(分析))
「センス」の基盤を形成するもの
物事に対する好き嫌いを明確にし、好き嫌いについての自意識をもつこと。そしてその好き嫌いに忠実に行動すること。
古今東西優れた経営者の重要な条件の1つ
ハンズオン…奥座敷に引っ込んでないで自ら現場に出る。
なぜハンズオンなのか
自分の事業に対してオーナーシップがあるから。商売が自分事であれば、自分の眼で見て、自分の手で触り、自分の頭で考え、自分の言葉でコミュニケーションしたくなる。
経営者の経営スタイルを知るうえで決定的に重要なポイント
オンとオフの境界線をどこに引いているか。「何をしない」ことにしているのか。
日本の「天然資源」
「おもてなし」の精神。
競争戦略の本質
「違いをつくること」
本当に役に立つのは、本質部分で商売を支える論理
優れた経営者というのは抽象化してストーリーを理解し、その本質を見破る能力に長けている。商売を丸ごとで見て、流れ・動きを把握して、それを論理化することで本質にたどり着くことができる。もともとは具体的な個別の事例が、自分のアタマの引き出しにしまうときには論理化された本質に変換されている
独自の戦略ストーリーを構築するための王道
他社の優れた戦略をたくさん見て、抽象化するという思考を繰り返すこと。
「イノベーション」の条件
- 「非連続性」。技術進歩とは異なる。
- 「連続性」(非連続性の中に一定の連続性が確保してあるということ)。供給よりも需要に関わる現象。顧客の心と身体を動かす(=社会にインパクトをもたらす)もの
インターネットのような新しい技術が非連続に生まれたとしても、それを使う人間(顧客)の方はそれほど非連続には変わらない。…中略…人間社会の需要のありようは古今東西わりと連続的だと考えたほうがよい。単純進歩主義者はここを見落としてしまう
イノベーションに対する最大の賛辞
「なぜこれが今までなかったんだろう」。イノベーションは「できるかできないか」よりも「思いつくかつかないか」の問題であることが多い。
※cf. ”スキマをついたコンセプトか?”([本]『ヒット率99%の超理論』(五味一男 著))
イノベーションの逆説的な本質
非連続な価値を創造するためには、使用する顧客の側での連続性を取り込むことがカギになる。イノベーションが狙うべきは「いまそこにある」ニーズでなければならない
「攻撃は最大の防御」という論理の本質
追求する競争優位の次元が(多分に意図せざる成り行きで)転換する、その結果、従来の文脈では弱みだったことが弱みでなくなり、あまつさえ新しい強みの源泉になったりする。
経営の優劣は一義的に統合の質によって左右される
多様性それ自体からは何も生まれない。多様な人びとや活動をひとつの目的なり成果に向けてまとめあげなければ意味がない。
グローバル化の正体
それまでのロジックで必ずしも通用しない未知の状況でビジネスをやるという「非連続性」
グローバル化が難しい本当の因果関係
ビジネスが直面する非連続性が大きくなるほど、商売人としての経営人材が必要になる。グローバル化の本質は非連続性の経営にある。しかし、経営人材が希少なので、グローバル化が困難になる。
ポートフォリオ経営の本質
過去を忘れる力。過去をなかったことにして、事態が変わればスパッと気持ちを入れ替えて、あたらしくポートフォリオを組み直すという変わり身の早さが求められる。
「インサイド・ジョブ 世界不況の知られざる真実」
リーマンショックを発端とする世界金融危機の実態を、金融業界の当事者をはじめ、金融の専門家や学者、政治家などのインタビューを通して追及していくドキュメンタリー映画。
『なぜ資本主義は暴走するのか』
投資銀行が主導する「ウォールストリートのマインドセット」がエンロンやワールドコムの不祥事の温床になったことを強調している本
古今東西、事業経営に必要なもの
「粘り」や「蓄積」
カネと名誉と力と女
そもそも相互につながっている要素のどれか1つを選んでも意味がない。要素間の相互依存関係をじっくりと読み取り、なるべく全部満たせるようなツボを見極めることが大切。
経営センスの論理 (新潮新書)
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