[映画]『アヒルと鴨のコインロッカー』(中村義洋 監督)

正直に告白すると、伊坂幸太郎の本は『死神の精度』以外読んでいません。その本を読んだ直後に観た彼の原作の映画『陽気なギャングが地球を回す』で懲りていたためです。控えめに言って、時間の無駄でした。しかし、本作は良い意味で期待を裏切ってくれました。映画が終わった後、ボブ・ディランの「風に吹かれて」が無性に聴きたくなる映画です。

「アヒルと鴨のコインロッカー」というタイトルなんて、ある種シュールレアリスティックな「手術台の上のミシンとこうもり傘との出会い」的な、もしくは「月と六ペンス」くらいに作中では言及されないような比喩的なものかと思っていましたが、それもしっかりと裏切ってくれました。

以前、この映画は「図書館を襲って、広辞苑を盗む映画だよ」と紹介されました。その紹介で「見る価値がない」と判断していた(愚かにも)のですが、今思えばそれは結末を知っている人間の優しさだったんだな、と。映画の内容については、とにかく、伏線の回収が絶妙で唸りました。前半に感じた微妙な違和感(たとえば、河崎の異常なまでの近い距離感が同性愛を思わせたり…)は後半で悉く解消されます。演技としても、瑛太の「アクセント」も絶妙でした(それは演技に限らず)。

ブータンについて

この映画に概念的に出てくるのが「ブータン」。それは登場人物のドルジがブータン人であるからです。ブータンといえば、ブータン国王ジグミ・シンゲ・ワンチュク夫妻が来日したことは記憶に新しいかと思います。

賛否両論あると思いますが、彼が1972年から掲げている「国民最大幸福量」、その最大化を目指す政策はよく話題になりました。私としては、素晴らしい理念だと思いつつも、これは功利主義的な「最大幸福の最大幸福」っぽくて殊更取り上げる必要もないとも思ってはいます。厳密には違うのでしょうが、言葉ってものすごく脆いというか、大義名分を打ち出すのは簡単ですからね。別に批判するつもりはありません。当事者であるブータン国民が本当に幸福であることを祈るばかりです。

いや、違うな。こういうことが言いたいんじゃない。何が言いたかったかと言うと、我々は「ブータンを意識して生活しているか」ということ。少なくとも私はいま調べて「あぁ、ここだっけな」というくらいの認識程度でした。映画の中でも「アジアのどこかの国」と言われてしまう始末。伊坂幸太郎という一人の作家が創りだしたフィクションとはいえ、感動を与えてくれたドルジに敬意を払ってブータンの場所くらいは覚えておこうと思います。すべては、注意を向けることから。


※メモ※

本屋を襲撃する前の河崎の言葉

裏口から悲劇は起きるんだ。

琴美の言葉

神様を閉じ込めて、全部なかったことにしてもらえばいいって。




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