[映画]『ヒッチコック』(サーシャ・ガヴァシ 監督)
ヒッチコックの『サイコ』を初めて観たのはもう10年以上前。「映画を語る上で外せない作品」と、とある映画好きの知人に言われたため、鑑賞しました。『サイコ』の公開が1960年。勧められた私としたら、40年弱経っている映画なんて、大したことないだろうと思った記憶があります。しかし、映画好きの知人が言うだけのことはありました。ほぼ開始直後に度肝を抜かれ、目が離せなくなったのは非常に印象深いです。あの映画の裏側には妻アルマ・レヴィルの存在があった、というのがこの映画の筋です。
予告編でも出てきていますが、『サイコ』における特筆すべき特徴について提案したのは、なんと妻のアルマ。”あの大ヒット映画の裏には夫を支える妻の姿があった”という美談「のみ」を最初は期待していたのですが……そうは問屋が下ろしませんでした。
アルマは作中で、下心が見え見えの男ウィットと「共同執筆」なるものに勤しみます。彼女としてはまったくそのつもりがなかったようですが、ヒッチコックにはウィットの下心が手に取るように分かったようです(ウィットに下心があったという描写も後半に出てきます)。それゆえ、彼はアルマに嫉妬するのですが、それがいかにも人間らしい。あの神も、やはり一人の人間だったと。
それにしても、アルマがヒッチコックを支える姿というのは何とも涙ぐましい。ヒッチコックが体調を崩し倒れると、現場に行って仕切るのはアルマ。妥協することなく、現場を監督します。台本に至らぬ所があれば、書き直すのもまた彼女。映画のエンドロールには彼女の名前は出て来ません。映画が完成したものの、駄作であることを自覚していたヒッチコックは彼女にヘルプを出します。そうすると彼女は一緒に編集をしてくれます。もう完全に無償の奉仕です。そんな彼女のことを気遣って、ヒッチコックはなるべく彼女を高められるよう世間の前で振舞います。夫婦というのは、お互いに高めあえてこそだなと強く思いました。
さらに、興味深かったのはヒッチコックの「マーケティングセンス」です。
当初『サイコ』はさほど期待されておらず、映画会社から資金が出なかったため自己資金で撮影が開始されました。公開される映画館もたった2館。そんな逆境も諸共せず、彼は様々なマーケティング施策を実行に移し、満員御礼にて映画が公開されます。映倫(映画倫理委員会)に対する「交渉」場面なども非常に勉強になりました。
また、エンドロールのSpecial Thanksに"Jessica 'Alma' de Rothschild"という文字(特にロスチャイルドの部分)が出てきて非常に気になっていたのですが、調べている方が他にいらっしゃったので、引用させて頂きます。
ガヴァシ監督の奥さんはJessica de Rothschildというtheater producerで
ユダヤ財閥イギリス・ロスチャイルド家のイヴリン・ロスチャイルドの娘。
二人はシナゴーグで挙式してる。
奥さんに"Alma"と付けてるから監督はヒッチコックに自分を重ねてるんだろうね。
サイコ関係は原作者、パラマウントの社長、エージェントのルー、探偵役、
ジャネット・リーの旦那、タイトルデザイナーなんかがユダヤ人。
本作はプロデューサーのライトマン、音楽のエルフマンなんかがユダヤ人で、
配役もオリジナルがユダヤ人ならユダヤ人の役者を使ってるみたい。
20人以上の監督候補から選ばれたから、自分がこの映画を撮れるのは
君たち一族のおかげだよ、っていう裏メッセージなのかな?
映画全体はだいたい90分程度。退屈する暇もなくエンドロールを迎えると思います。鑑賞後『サイコ』が観たいと思えること、請け合いです。取り上げている『ヒッチコック』の前に一度見ておくのも良いかもしれません。
※メモ※
アルマがヒッチコックに言った言葉
「何かを達成するのには犠牲を払わなきゃ」
ヒッチコックのマーケティング施策
- 原作の映画化権をわずか9,000ドルで、匿名で買い取った
- ネタバレを防ぐため、市場に出回っていた原作を可能な限り買い占めた
- 撮影前に撮影関係者全員に映画の内容を口外しない宣誓をさせた
- 映画館への途中入場やストーリーの口外禁止の録音メッセージを劇場で流した
「次回作」を匂わせるシーン
今は何のアイデアもないが、もうじき舞い降りるでしょう。
ヒッチコック&メイキング・オブ・サイコ
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